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好きな女性との出会いからの全て
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彼女からの電話。
戸惑いながらも嬉しくないはずがない。

「どうしたの?」

聞くとどうやらバレーでの愚痴のようだった。
今度の本大会についてのメンバーの起用法とか
その他色々・・・
わざわざ電話してくるような事じゃないような気もする。

でも、僕もスゴク良くわかる話だった。
僕にしか言う事が出来ない話だったのかもしれない。

その事がなによりも嬉しかった。
愚痴だろうがなんだろうが、だ。

突き放すようにして
また掬い上げる。

冷たくされたようにして
崩れかけていた気持ちが
また引き寄せられる。

どうしてこんな事するの?

冷たくしてくれれば
キライになれるかもしれないのに・・・

いや・・・

本当にキライになんてなれやしないんだろうけど
諦められるかもしれないのに。

僕がそんな状態になると
ちゆきさんはそれがわかっているかのように
不思議と手を差し伸べてくれる。
優しくしてくれる。

ただ愚痴を聞いているだけなのに
僕を頼ってくれているように
錯覚かもしれないけど
まるで僕しかいないかのように。

電話を切った後
なんだかふわふわしていた。

その日の夜

もう一度電話がなる。
ちゆきさんから。

再び愚痴
また別な愚痴

なんでもいい。

僕に電話してくれる。
愚痴でもストレスでも僕にぶちまけてくれる。

「うん、うん。わかる、わかるよ。」
とそればかりの僕。
きっと8割はちゆきさんが話していたと思う。

でもでも嬉しくて嬉しくて。
ふわふわして夢心地で。

たった2本の電話だったけれど。
僕の心はあっけなく吸い寄せられて。

その日の夜は
なんの不安もなく

久しぶりにぐっすりと眠る事が出来た。



第十四部 安眠 完


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もう二度と、密会が叶わないような気がしていた。
気持ちが遠のくような気がしていた。
なのに僕はまた・・・心を捻じ曲げるように
彼女を繋ぎとめるようなメールを送った。

「たくさんわがままを言ってちゆきさんを
困らせてごめんなさい。
今日もずっと隣にいて幸せでした。
今日のちゆきさんもキレイで魅力的で
我慢できなくなってしまって
わがままになってしまいました。

もっと自分をコントロール出来る様になりたい。
ちゆきさんにごめんといわせてごめんね。

こんな事を聞くのはどうかと思うんだけど
最近の俺はちゆきさんの事誘ってばかりで
ちゆきさんにとって重荷みたいな、
面倒な存在になってる?
もしそうなら悲しいけどごめんね。

そんな事ナイヨーって答えを期待してるけど
ホントの事が聞きたいな・・・」


面倒なんて思われたくも言われたくもないくせに、
「そんな事ないよ」と返事が欲しかっただけなのかもしれない。

「めんどくさいとかしつこいみたいに
思ったことはないから気にしないで
でも帰りに会うとかはやっぱり
違うような気がするんだよね。
楽しく飲み会とかはしたとしても
少し会うつもりがずるずるになるし
付き合ってたら別だと思うけど。
あきくんはわかってくれているとは思うけどね。

とにかくそんな風には思ったことはないから。」

嬉しいのか悲しいのか
どうにもならないようなメールが届いた。
僕は短く返信する。

「わかりました。素直にそう受け取りますね」


「ごめんね。気にしないでね・・・
あたしも愚痴聞いて欲しいときもあるし
その時はよろしくね。」


そんな返信。

普通なら勝手な事言ってるな!
と思うかもしれない。
気にするな?そんなの無理でしょ、と。

でもやっぱりそんな事は言えない。

「うん、俺は大丈夫だよ。
ちゆきさんがつらい時、大変な時は
いつでも力になるつもりだし。
いつでも言ってくれよ。」



いつまで どこまで

僕は自分の心を捻じ曲げればいいのか?
でもやっぱりそれはちゆきさんには言う事が出来なかった。

そんなうわべだけのうメールを送りながら
いや、うわべだけという事はないかもしれない。
彼女の笑顔は守りたい思いはある。

だけど・・・しかし・・・

僕の中で何かが崩れ落ちるような気がしていた。



次の日

僕はいつになく落ち込んでいたような気がする。
たわいのないメールや電話
飲み会の企画を考える事もなく
ちゆきさんのことはうすぼんやりと考えていたけど
疲れていたのかもしれない。

眠れない日々は続いている。

ふと電話がなった。

だれ?

見た事もない、登録されていない携帯番号。

「もしもし?」

『もしもし、あたし』

ちゆきさんからだった。
仕事で使っている携帯から。

彼女から電話がかかってくるなんてめったにない。

しかも

『もしもし、あたし』・・・って。

僕は思わず吹き出してしまいそうになった。

「『もしもしあたし』ってちゆきさんどんだけなんですか(笑)」

たった一本の電話

それだけで僕は・・・

情けないかもしれないけど

そこにはなんの希望もないかもしれないけど

また

彼女に引き寄せられてしまいそうだった。


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バレーの本大会の抽選が終わった。
近隣の町からそれぞれ勝ち抜いてきたチーム同士が戦う大会。
予選よりも更にレベルが上がる。
全24チームでの戦いだった。

本大会でもまず予選リーグを戦い
そこで勝ち抜くと決勝トーナメントへ進める
という、オーソドックスなもの。

僕らのリーグはまたしても強敵そろいだった。
しかも順当に勝ち上がっていくと
準決勝でまたしても
あのチームと当たる。
優勝してちゆきさんとデートするためには
避けては通れない道だ。

だがしかし僕はふと疑問に思う。
優勝はしたい。ちゆきさんに味あわせてあげたい。
僕も味わいたい。このチームで。
彼女と一緒に。喜びを分かち合いたい。

けど・・・

本当にデートしたい?
2人で一緒にいたいとは思う。
でもそれはデートとはまた違うような気がする。

彼女が喜んでくれればそれでいい。
やっぱり僕にとってデートはおまけでしかなかった。

チームで決起集会をした。カラオケ。僕の企画。
当然のように彼女と会いたいから企画した。

あの密会から一度も会えぬまま10日が過ぎようとしていた。
こんな事は初めてだった。
会いたい・・・ ただその一心だったと思う。

ちゆきさんを送って行きたかった。
送っていけば帰りに会える。

そう思ったけれど彼女には断られた。
用事があるから自分の車で行くという。
そして早めに帰るからと。

カラオケの最中ちゆきさんが帰ってしまう時間が近づいてくる。
あの時みたくはもう戻ってきてはくれないだろう。

「そろそろ行くの?」
小声で聞いてみた。

『あぁ・・・用事なくなったの
パパが代わりに行ってくれる事になって。』

「なんだよ、じゃあ今日本当は飲めたんじゃん。」

『急に代わってもらえる事になったの、ごめんね』

それは言い訳のような気がしていた。
僕と来れば密会になってしまう事を
ちゆきさん自身もわかっている。
だから、それをしないため、出来なくするために
自分で車で来たのかな?と、思った。



帰り

全てが終わったのが22時半過ぎだった。

「15分でもいいから会いたい」
とメールする。

「ごめんね、今日は帰ります
パパにまた怒られたら大変だし・・・
出してもらえなくなるから
今日は帰ります」

それでも僕はあきらめきれない。

「11時までに帰すから。5分だけでもいい。
もし今日約束を破ったら二度と会わなくてもいいから。
おれもう・・・ちゆきさんが切れちゃいます」

そこまで言った。

しかし彼女の答えは

「ごめんね今日は無理なの」

すぐに電話もした。
会えないなら少しでも話したいと。

出ない・・・

「わかった。もう会えなくてもいいよ。
だから電話に出て。少しでも話したい。」


メールを打つ。

携帯が震える。

「ごめんねもう家についたの。
電話も出られないよ。ごめんね」

それが彼女からの返信だった。



もう二度と密会は叶わないような気がした。

それどころか僕の中から
僕の心いっぱいだったちゆきさんが
いなくなってしまうような気がした。

なんだか気持ちが遠のくような
そんな気持ちに。

僕の心はどうなってしまったのか・・・
自分自身でもわからなくなっていた。



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僕の眠れない日々は未だに続いていた。

ちゆきさんと心が通じ合うような
そんな密会をしたとしても
全ては錯覚だとわかっているから。

眠れない理由は良くわからないけれど
きっと様々なことが複雑に絡み合って
僕自身をそうさせているのだろうと思う。

最後の密会の後
僕はまたちゆきさんにラブメールを送っていた。
今日はありがとうとか、
いつも素敵だったとか、
魅力的とか、
いっちゃいけないのに「好きだ」と伝えたり

そんな内容

彼女からの返信は以外にもすぐやってきた。

密会の前の飲み会で
また4人で色々出かけよう!
と、言っていた。はしゃいでいた。

また温泉に行こうとか
紅葉を見に行こうとか
泊まりもいいね!
なんて・・・

僕はワクワクせずにいられない。

2人きりじゃないとはいえ
ちゆきさんと出かける。
出かけたなら
きっと密会も待っている。
保障はないけれど淡い期待をしてしまう。

彼女の立場を考えず
わがままをいい
『もう帰らないと』
そういう彼女を帰しもせず
抱きしめ、キスをして、つなぎとめ
少しでも長く、と。

そのツケが一気に回ってきたのかもしれない。

『昨日帰ったらこんな遅くまでなにやってるんだ!
と、旦那に怒られました。色んな事の楽しみが
わからない旦那なの・・・あたしも頭に来たけど・・・
当分飲み会とか遅くなるお出かけは無理かも』


一気に心の波が引いていくのがわかった。
僕のせい?僕がちゆきさんを帰さなかったから?
旦那さんに怒られるなんて初めての事かもしれない。
少なくとも僕は初めて聞いた。

ちゆきさんは今の旦那さんにはなんの愛情もないという。
本当かウソかはわからないけれど、僕にはそう言っていた。
だけど、旦那さんはやっぱり、ちゆきさんのことが好きで、
遅くなりすぎたりするのは好まなかったようだ。

僕はほんの少しの満足感のために
自分の気持ちを満たすことのために
彼女を束縛してしまっていたのか。

その結果
彼女を檻に閉じ込めてしまう事になるのか。

しばらく出かけられない

そう言われて

「ごめんね・・・」

そうメールを帰す事以外
なにも出来ずにいた。




そしてそれは

彼女に会えない日々の

始まりでもあった。

そのまま眠れない日々がまた重なり
今度はバレーの本大会が近づいてくる。



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僕が運転席に移り、
ちゆきさんが助手席の後の後部座席。
いつでもこのスタイルだ。

「帰ろっか」

『うん』

僕のすぐ斜め左後ろにはちゆきさんがいる。
右手で運転しながら左手を伸ばすと手が届く。

「手・・・ちゆきさん?手、繋ぎたい」

『まったくもう・・・さっきたくさん繋いだでしょ?』

「何度でも、もっと繋ぎたいんだよ。」

まったく・・・なんていいながらも
ちゆきさんは僕の手を握ってくれる。
とても優しくにぎにぎとしてくれる。
僕もふわふわと握り返す。

付き合ってるかのような
恋人であるかのように錯覚する。
恋人なら助手席に座るだろうけど。

「ね、ちゆきさん?俺の耳にキスして」

『なんで?』

「え?きっと気持ちいいから♪」

『もう・・・年下はわがままだな(笑)』

そう少しはにかみながらちゆきさんは
僕のすぐ左後ろまでにじり寄る。

運転手の僕の耳をちゆきさんがを噛んでくれる。
甘噛みする。足の指の先まで快感が走る。
耳を中心にそれが全身に広がる。

僕は声を出してしまう。
あまりの気持ちよさに。

キスがしたくなった。

車を不意にとめる。

後を向く。

彼女の顔がすぐそこにある。

唇を奪うように不意にキスをする。

油断でもしてたというのか・・・
ちゆきさんの唇はとてもとても柔らかかった。

『あっ!もう・・・油断してた!』

少しふくれるちゆきさんは可愛い。
キスされた彼女は後部座席にもたれかかる。

「もう一回だけ・・・
もう一回だけキスしたい。」

そんなわがままが通るとは思っていない。
無理に決まっている。そう思っていた。

「!!っ!」

自分で言ったのに今度は不意をつかれた。
ちゆきさんは僕の元に自分の唇を運んでくれたんだ。

深いキスじゃなかったけれど
とても柔らかくて恋人のようなキスだった。
僕の心と体はそう感じて反応していた。

「今日はありがとう楽しかった♪」

『うん・・・楽しかったね』

「おやすみ」

『おやすみね』

なんの保障もないというのに
僕の心はいつになく満たされていた。
この日が最後の密会かもしれないのに
再び会う恋人達が少しの間の別れをするように

そんな風に僕は彼女を見送った。

ちゆきさんは後ろを振り返らない。
そんな彼女を僕はしばらく見ていた。

とても美しい後姿だった。


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