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好きな女性との出会いからの全て
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『教頭はあたしがメールしてると「誰にメールしてるの?」
って携帯見てくるの。だから明日はメール出来るか
わからないよ。』

ちゆきさんと教頭が旅行に行った日
僕が望んだメールは来なかった。

でも落ち込んだわけじゃない
きっとメールが出来ない状況だったんだろうな、と思った。
いや、そう思う事にした。
そう思わなければ・・・

それでも夜中まで携帯を握り締め布団にもぐりこんでいた。
僕の携帯は震える事はなかったけれど。


僕が旅行の間にメールが欲しかった理由

例え教頭と二人で旅行にいっていたとしても
メールを打つときは僕の事を考えてくれるから


少しでも僕の事を思い出して欲しかったんだ。

メールは来なかったけどね。


次の日

朝起きたら着信ランプが点っていないか?
と、携帯を見るがなんの痕跡もない。

電波も悪くないのにメール問い合わせをしてみる。
もちろんなんのメッセージも届いていない。

そして昼

メールの着信音がなる。

携帯を開くとちゆきさんからのメッセージだと
すぐわかるようになっている。

僕はそれだけで嬉しくなった。

昼だから帰ってきたのかな?
だからメール出来たのかな?
それとも隙をみてメールくれたのかな?

いろいろな事を考えた

『昨日はメール出来なくてごめんね
打とうと思ったけどやっぱり無理でした。
今もトイレに行くっていって打ってたんだ。

今日バレーだね
お土産買って行くから、今日渡すね』

ちゆきさんはちゃんと僕の事を考えていてくれた。
夕べもこの日も。

顔が綻ぶのが鏡を見なくてもわかる
なにをしたわけじゃないけど報われたような気がした。

そしてその夜
バレーの帰りに10分だけちゆきさんと会った。
5分だったかもしれない。

おかえり・・・

桃のゼリーをもらった。
本当はかわいいバスケのストラップを買おうと思ったらしい
だけど、教頭に
「バスケ?・・・もしかしてあきに買っていくの?」
と、言われて焦ってやめたそうだ。

僕は単純だ。

旅行に行くと聞かされても

ちゆきさんがメールをくれた。
お土産をくれた
ストラップまで買おうとしてくれた

そんな些細な事でも嬉しくなってしまう。
いや、僕にとっては些細な事ではないのだけれど。

だって、少なくとも
その時間は僕の事を考えていてくれた訳だから。

沈みかけ、折れかかっていた僕の心は
まだもう少し大丈夫そうだ。

それでも

なにかが劇的に変わったわけじゃない。
ちゆきさんの心がどこを向いているのか・・・

それがわからぬまま

また、日常が始まる

第九部 完

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「旅行?! え?明日旅行行くの?」

確実にちゆきさんはそう言っているのに
僕は聞き返した。

彼女はだまってうなずく

「旅行って・・・ も、もしかして教頭と?」


『うん・・・』

ちゆきさんはそう答えた。

「旅行か~ そっか旅行行くのか~」

僕は思考が完全に止まったかのように
わけのわからないことを呟いていた。

そして僕は聞かなくてもいいのに
いろんな事をちゆきさんに聞いた。

どこへ行くのか?
温泉なのか?
旦那にはなんて言って行くのか?

いつでも感情をコントロール出来るようになりたい

いつでもちゆきさんを笑顔でいさせるために。

きっと僕はこの時

笑っていたのか
悲しんでいたのか
虚ろだったのか

ハッキリ言えば覚えていない

ただ
動揺はしていたと思う、間違いなく。

男と女が旅行に行く
二人きりで

当然

ちゆきさんは教頭に抱かれるだろう

そんな事はわかっているし
旅行に行かなくても抱かれている

僕は本当の本当に理解してなかったのかもしれない。

でも

頭で、心で、体で、僕自身が全部で
理解しなければならなかった。


二人きりでちゆきさんと会えないとか
メールが出来ないとか
CDの事とか
キスの事とか

全部吹っ飛んでいた

二人は付き合っているんだ・・・

心と体が引き裂かれそうだった

旅行の事を聞かされる
友達でいようと言われる
僕の気持ちには応えたらダメだと

なのに・・・

それなのに

僕はまだちゆきさんをキライになれない

それどころか

僕はまだちゆきさんが好きだ

せめてもの抵抗じゃないけど、
今まで何度しかたわからないお願いを
僕はまたちゆきさんにした。

「ちゆきさん?明日、旅行に行ったらさ。
いつでもいい。いつでもいいから、
どんな内容でも、どんなに短くてもいいから
・・・メールを下さい」

約束をしたわけじゃなかった
ただ僕の希望だった。

次の日

ちゆきさんが抱かれるであろう、その日

メールは来なかった。


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「実は渡したいものがあるんだ
だから、食事会の帰り10分でもいいから会えない?」

彼女からの返信はなかった。

そのまま食事会が始まった。

食事会はそれなりに楽しいもので・・・
いつでもそう
楽しい時間は早く過ぎる。

それでも23時には家に帰りたい、と言っていた。
ここでゆっくりしてたらとてもじゃないけど会えるはずもない。

しかし時間は刻々と過ぎてゆく。
21時には解散する予定だったが、
やはり話は盛り上がるもので
結局全部終わったのは22時だった。

そこから帰る時間が30分はかかる。

解散して他の2人が帰った後、
駐車場で僕は

「今日どうしてもダメですか?
ちゆきさんにプレゼントあるんだ。
それを渡すだけでもいいんだけどさ」

『うーん、ちょびっとだけだよ?』

もう二度と二人きりで会えないかもしれない
そう思っていた僕は少しだけホッとした。
だけどそれはほんのつかの間の事だったんだ。



「はい、ちゆきさんコレ」

『え~なにこれ?開けていい?』

ちゆきさんは袋を開け中からCDを取り出す。

「これね、ちゆきさんにプレゼントなんだけどさ
プレゼントとかいってお願いなんだけど、
今度の大会の慰労会でさ、この歌歌ってくれない?
ちゆきさんがさ。」

大会までは一ヶ月ある

「これすっごくいい曲なんだよ。
ホラ昔流行ったアノ曲あるでしょ?
それのリメイクなんだ。
絶対ちゆきさん歌ったらイイと思う」

『え~歌うの?歌えるかな?』

「絶対歌えると思う。声もきっと合ってると思うし。」

『・・・わかった、歌えるかわからないけど
頑張ってみるね。ありがと、あきくん』

僕はなんだか嬉しくなって勝手に唇がほころんだ。
抱きしめたかったけど、なんだか今日は出来なかった。

「明日早いっていってたけど、どっか行くの?」

『うん?う・・・うん 仕事でね・・・ちょっと朝6時頃いかなきゃなくて・・・』

彼女はどこかぎこちない。

「仕事?随分早いな~ 大変そうだね、頑張ってね」

そういう僕に彼女は視線を合わせないようとしない。
おかしいな?と思った。

「ちゆきさんどうしたの? なんかおかしいな(笑)
本当に仕事なの?もしかして・・・デート?」

彼女は黙っている。

今思えば

密会なんかしなければ良かった。
CDは別にしても
色々聞かなきゃ良かった。

いや

聞く運命だったのかな?

「そうっか、明日デートかぁ~って朝6時ってはやいね(笑)」
完全に強がりで笑っている。

『うん・・・実はね・・・』

ん?

『明日は旅行に行くの』

えっ?!
旅行って?

僕の時間はそこで止まったかのようだった。



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メールが出来ないままにちゆきさんと会う日がやってきてしまった。

彼女に気持ちを伝えてから数ヶ月
メールを毎日といっていいほどしてきた。

重いメールも
ネガティブなメールも
大好きなメールも
くだらないメールも
ちょっといやらしいメールも
おはようメールも
おやすみメールも

彼女と言葉を交わすなら何でも良かったのかもしれない。

そんな僕がメールが出来ないままに一週間が経とうとしていた。

その間彼女はどう思っていたのだろう?

寂しく思ってくれているのか
忙しくて僕の事など忘れているのか
少しは変だな?と思ってくれているのか
はたまた何とも思っていないのか



その日はただの食事会だった。
早目に集まって早目に解散
人数も4人と少なめ

僕は幹事ではなかったけれど、
連絡係りを任されていたので
ちゆきさんに連絡を取らなければならない。

メールを打っては消し打っては消し

結局、用件だけを打とうと思った
時間と場所だけ・・・

だけどやっぱり会いたい。
そう思って最後に

「会いたい」 と書いた。

いつもならちゆきさん送り迎えは僕の役目

の、はずだった。

だけどこの日はちゆきさんは用事があるからと
一人で車で行く、という。
お酒も飲まない、と。

本当に用事があったかどうかはわからない。
でも、
先制パンチをもらったような気分だった。

二人で別々の車で出かけたとしても、
密会をしたことはある。

僕はわずかな希望をもっていた。
「友達でいよう」と言われ
メールも出来なくなっていたのに・・・

最後の希望だったのかもしれない。



その食事会の前に僕はCDを買った。
彼女にプレゼントするためのCD。
彼女のためのCDだったけれど、
僕のためのCDでもあった。

また

そのCDを渡す名目で彼女に会えないか?
そこまで考えていた。
何か理由がないと会えないような気がしていたから・・・

そのCDは恋の歌だった。
女性が恋をする歌。
そして僕の思い出の曲

その思い出の曲がリメイクされた。

そのCDを僕は買った。



そして再び勇気を振り絞ってメールを送る

今日の帰り会えない?と。

彼女から返事か届く

明日の朝早いから11時には帰りたいの
だから今日は会えないの。ごめんね


僕の気持ちは折れそうになった。

だけど

まだ諦めきれなかった。


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彼女と別れた後、僕はしばらく帰れなかった。

帰った後も眠れなかった。

彼女の反応や対応
どう判断すればいいの?
僕が勝手に思ってるだけ?

『もう会えない』
と言われたわけじゃない。

でも
『ごめんね・・・』
とは言われた。

そして朝

僕は彼女にメールを送る

「昨日のもんじゃは楽しかったね。
ちゆきさんも純粋に楽しめたなら嬉しいな。

帰りは長い時間二人きりになれて本当に幸せでした。

きっとちゆきさんは眠くて覚えてないだろうけど
俺、たくさん自分の気持ち言ったんだ。
あんなに言ったのは初めてだったかな…
かえってちゆきさんが寝ててよかったのかな。

ちょっとは聞いて欲しかったという気持ちもあるけどねー。
ホントは起きてとか?(笑)

でも・・・

最後、本当に最後だと思うけどちはるさんに触れられて、
触れることが出来て幸せでした

帰る間際、抱きしめて、抱きしめ返してくれてありがとね。
今まで全てのちゆきさんとの出来事、思い出の中で一番嬉しかった

もっともっと、書きたい事、おしゃべりしたい事あるけど、

ほら、またさ…ね?
暗くなっちゃうかもしれないから今日はこの辺で

素敵なステキなちゆきさん」

そう、僕は寝ているちゆきさんに
気持ちをたくさんぶつけていたんだ。

本当は好きで好きでたまらない事
教頭の事我慢してるけどツライ事
キスもしたい抱きしめたい
もっと、もっと・・・

寝ているからこそ言えた事かもしれない。
その事をちゆきさんが聞いていたか、寝ていたか
それは僕にはわからない。

でも

儚く消え入るようにただぼんやりと
独り言のように呟いていただけだから
きっと覚えていないと思う。

そして
ちゆきさんからメールが届く

昨日はお世話様

あきくんの気持ちいっぱいいっぱい伝わってたよ
いつも 逢うたび 私のこと好きっていう気持ちが凄くね  
女として 歳下の男性から魅力的って言われて
嫌がる人いないでしょ  私は凄く嬉しい気持ちでいっぱいでさ

でも 抱きしめられて 素直に抱きしめてしまって駄目だからって
いつも思ってたんだよ  教頭のことも考えちゃうし
あきくん気持ちにこたえちゃったら あきくんだって苦しむの解ってたから

だから いつものように 楽しくバレーとか 愚痴こぼしあえる友達でいてね
何か落ち込むことあったら 私も聞くからね

ごめんねっていっちゃ駄目なんだよね  これからも  よろしくね


これからもよろしく?!
友達として・・・?
それが答え?

高校一年の時に付き合っていた彼女に言われた言葉を思い出した。

『わたしたち付き合う前の友達の方がよかったね』

好きな女性に「友達でいよう」と言われる。

切なくてツライ事だった。
自分で自分が情けなくなるには十分な理由だった。

自分でも区切りをつけたし、彼女にも突きつけられた。

そして

その日から僕は彼女にメール出来なくなってしまった。


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