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好きな女性との出会いからの全て
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僕はあのバレーの日から少しは変われたのだろうか?
その答えはちゆきさんが持っている。
そんな気がする。



その日

僕はどうしてもちゆきさんに会いたくてウソをついた。
その週はもう2度も会っていて本当なら会えるはずもない。
でもちゆきさんには会えば会うほど会いたくなる、そんな魅力があった。

僕が「好き」と言う事もあるとは思うけど。

ちゆきさんとどうしても会いたくて

「話したい事がある」
と、僕はウソをついた。
話などない。ただ会いたいだけ。

いつもならただ、「会いたい」とか「ちょっとだけだめ?」
とか聞いていたからちゆきさんも不思議に思ったのかもしれない。

『10分だけだよ?』

そういって僕らは二人で車を走らせた。

『それで?話ってなに?』

話などない・・・
話などないけど話をしないとウソをついた事になる。
いや、もうウソはついていたんだけれど。

僕は教頭の悪口を言わない

けれど、ちゆきさんにとって大事な話と言ったら教頭の事くらいしか・・・

この事はちゆきさんには言うつもりはなかったんだけれど、
僕は数日前に起こった事を話し始めた。



その日は学校の行事で学校全体の話し合いが行われていた。
学校に対する意見や苦情、学校がどうしたら良くなるか?
懇談会みたいなものかな。

詳しくは書かないけれど
そこで教頭のミスが明らかになった。
校長も報告は受けていない、と教頭に丸投げ。

明らかになった

と言ってもそのミスを知っているのは僕だけだった。
明らかな教頭のミス。

僕が黙っていると・・・

なんと、教頭は他の先生のせいにした。
自分も報告はうけていない、と。

ある事件が(事件と言うほど大げさなものじゃないけど)起きて
それを「僕が」ある先生に報告した。

僕は言った
「この事俺のほうから教頭や校長にも報告しましょうか?」

その先生は
「いや、これは学校の問題なので私が報告します」
と言った。

その先生はすぐに『教頭』に報告した。

そして、その様子を僕は遠巻きながらに見ていた。
確かに教頭は報告を受けていたはずだった。

その教頭が全体の懇談会という場所で
自分の責任を放棄し、他人のせいにした。

不幸にもその先生はその場に不在だった。

僕は耳を疑った。
そして教頭に聞いた
「本当に報告うけてないですか?」
真相を知っているのは僕だけだ。

「本当に受けていない」
そう教頭は言った。

僕はそれ以上なにも言わなかった。
そして教頭に少なからず失望した。

 
この事を僕はちゆきさんに話した。
そしてそれ以上いうつもりもなかったのに
学校で評判があまりよくない、とも話した。

これは事実だ。

最初は人気者だった教頭はこのころ、
一部のだが父兄や先生方に嫌われていた。

その話を聞いて、
いや、僕もそこまでいうつもりは毛頭なかったんだけど
流れでその話をして、それをちゆきさんが聞いて
思い悩んだように黙ってしまって。

『あたしが悪いのかも・・・
あたし、教頭の思いが強すぎてあまり会わなかったんだ
あきくんとばっかり会ってさ。

あたしと会いたくて仕事手につかなかったのかな?
一生懸命でみんなに好かれていた教頭だったのに。

あたしの事考えて仕事が手につかないって言ってたときもあったし、
あたしのせいで教頭、だめになっちゃったのかな・・・』

僕は

それはちがうよ!
それとこれとは別問題でしょ!
ちゆきさんは悪くないよ!

たくさん力説して話をした。

だけど

ちゆきさんには届いていなかったのかもしれない。

そのまま

ちゆきさんは思い悩んだまま

「今日は帰るね」
と言って帰っていった。

そして

僕は自己嫌悪に陥った

流れのままに話した事とはいえ

あんな話をすればちゆきさんも傷つく・・・
傷つく?!
少なくとも気にはするだろ?と。

「話がある」

なんて

ただちゆきさんに会いたかったからって

言わなきゃよかった。

そしてちゆきさんからメールが来た。

あのメールが・・・

後悔はしても遅い
僕はちゆきさんとの関係に甘え
そして自分でその関係を壊した馬鹿だ

第八部  完


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『あきくんともうあんまり会えないね』

そうちゆきさんに言われた。

僕はあれからメールは楽しく
極力自分の気持ちを入れずに
どうしたら彼女が笑ってくれるか?
癒せる事は難しいかもしれないけど
どうやったら安らげるか?

そんな事を考えながらメールしていた。

その一方で会えるチャンスがあれば
わがままとはわかっていたけど
2人で会った。

2人で会っても毎回キスするわけじゃない
抱きしめられる訳でもない
ただ、話をするだけでも十分幸せだったんだ。

そんなちゆきさんは毎回と言っていいほど
教頭の話を僕にしていた。

学校であった事
2人で会った事
デートの事
愚痴・・・それはもう、僕が妬くには十分

教頭は束縛がスゴイらしい
そして思いがとても強い
ちゆきさんが自分以外の誰かと出かけるのは面白くない
もちろん僕と出かけるのもだ。

『たまに思いが強すぎて、まっすぐすぎて怖くなるときがあるの』
そう言っていた事もあった。

僕は教頭の悪口は言わない。
「もうわかれちゃえば?」
と、喉まで出かかる
「わかれて俺とつき合おうよ」
とは、言えない自分がいる

教頭はちゆきさんに
「旦那と別れて俺と結婚して欲しい」
とまで言っていたそうだ。

そこまでの覚悟が教頭にはある。

僕には・・・ない

その話を聞いて
「ちゆきさんと教頭が結婚したら、きっとこの町にいられなくなるよね?
そしたらバレーも出来なくなるね・・・
俺ももう会えないし。それだけは俺嫌だな」

と、正直な気持ちを伝えた。

ちゆきさんは
『大丈夫。それだけはないから。
それはちゃんと「ムリ」って教頭にも言ってあるよ
それでも、何度も言われるのよね(笑)』

僕の心は鍛えられたのだろうか?

教頭の話を聞いて平気じゃいられないんだけれど
聞くことが出来るようになっていた。
もちろんツライ気持ちは出さないようにしているつもり。

そしてそんな僕に彼女も信頼を寄せてくれていたのか・・・

確実に僕は

教頭よりも

ちゆきさんと二人きりで会っていた。

そして

そんな状況に甘えてしまっていたんだ。



ある日の密会の帰り

僕は自己嫌悪に陥っていた

その日の夜
ちゆきさんからメールが来る

『あたしはこれからもっと教頭と会うことにしました。
だからあきくんとはもうあんまり会えないね』

僕の胸はきつくきつく締め付けられた。

でもそれは

僕自身の責任だった。



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バレーの一件から初めての密会。
そこでのキス

僕はちゆきさんの心の扉を開けたのか?
それとも・・・

「怪我が治るまで二人きりで会わない」

なんて言いながらその日以来、
また密会を繰り返していた。
しかもかなりの頻度で。

僕は会いたい気持ちを抑えられなくなっていた。

以前は2週間に一度でも二人きりで会えれば良かった。

そこでパワーをもらってまた次、と。

それなのにこの頃
週に2回も会うことも少なくなくなっていた。
そして会えば会うほど会いたくなる。
キスしたくなる、ハグしたくなる、抱きしめて、愛撫したくなる。

それじゃいけない、というのも頭ではわかっている。

けれど二人きりになれるチャンスは少ない。
少ないからこそ、そのチャンスがあれば
僕は貪欲に行動した。

恋愛はポジティブの方がいい
と、よくいわれている
恋愛に限らずネガティブよりはいいと思うけれど。

メールにしても
以前ならなんでもイラついて落ち込んで
嫌な事ばかり考えていた。

でも僕は

何でも前向きに考えるようにしたんだ。

メールが来なくて当たり前
ちゆきさんだって忙しい

メールが来たら幸せ
ただ、メールをもらえるだけで幸せな事だろ?と。

電話に出てくれる
声を聞かせてくれるだけでいい。

会う、会わない。
会える、会えない。
断られたっていい、まずは誘ってみよう。

飲み会だって、密会だって。

そして、ちゆきさんをたくさん笑顔にしよう。
喜んでもらおう。楽しんでもらおう。

そんな風に

僕の本質はネガティブなのに

明るく、楽しく、いつもなにかあっても

「俺は大丈夫だよ」

と、言って

ちゆきさんに接していた。


ラジオからこんな歌が流れてきた
 

「大丈夫」は便利な言葉

いつの間にか私はうそつきになっていた


僕はちゆきさんに何でも話して欲しいと言った。
そして、ちゆきさんは
教頭の愚痴も教頭とのデートも
いろんな事を僕に話すようになっていた。

僕は嬉しさの反面

心が押しつぶされそうにもなっていた

それでも

「大丈夫だよ」といって

笑顔で彼女の話を聞いていた。

彼女は僕を少しは頼っていてくれてるのかな?
それはわからないけど密会の数は増えていた。

けれど

あの日かわした以上のキスは出来なかった。

そして

またしてもちゆきさんは僕の心をゆさぶったんだ。

僕の心はそれに耐えられるのか?



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僕のキスはいつでも感情がこもっていたはずだった。

激しく感情が高ぶるような
熱く深いキスはした事がない。

彼女の心の奥底まで届くような
深いなキスはまだ。

初めてキスをした時

僕はちゆきさんとキスがしたくてしたくて・・・
でもそんな勇気も持てなくて。

彼女は僕にそっとキスをくれた



あの時から幾度となくキスをしてきた。

それでも彼女にとって一番大事な深いキスは許してもらえない。
唇と唇が触れ合うような軽いキスだった。

それでも

僕にとっては奇跡のような事で
いつのキスも、何回目のキスも
感情がこもっていた事は間違いがないはず。

彼女がキスを拒む理由
それは・・・
『深いキスをしたら気持ちがとまらなくなってしまうから
深いキスはあたしにとってなによりも大事
だから彼氏としかできない
あきくんとこういう風に会ってるあたしが言うのもおかしいけど、
あたしには教頭がいる。

だからあきくんとは深いキスはできない』

最初にキスをした日の数日後
この話を聞いていた。

だから感情はこもっていたけれど、
はにかむ様にキスをして照れて
そして笑っていた。
感情を表に出してはいけない。



彼女に愛撫をする
彼女は感じてくれる

いけないこと・・・

そうお互いに思いながら
僕らは密会をしていた。

感情が高ぶると
僕はキスがしたくなる

そのまま
僕がキスをしようとすると
彼女は顔をそむける。

僕の心はギュッとなる。

ちゆきさんとこうしていられるだけで幸せだろ?!

と、心に言い聞かせる。

そんな今までだった。


 
そしてこの日の逢瀬の時間
僕の気持ちは溢れ出てしまったのか・・・
彼女の感情を揺さぶったのか

僕は初めてルール違反を突きつけられた

けれどそれは

彼女の心の扉を開いた瞬間でもあったかもしれない。
ほんの少しだけど。


僕は

ルール違反と言われた事が

なんだかとても嬉しかった。



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あのバレーの一件以来
初めての2人きりの時間・・・

僕は不安だった。

そして不安を打ち消すかのように
たくさんしゃべった。
どうでもいいような、今じゃ何も覚えていない。
そんな事をたくさん話した。

ちゆきさんは「帰ろ」とは言わない。

僕はこのままずっと2人きりでいたかった。
おしゃべりが途切れたら帰らなきゃいけないような気がしていた。


微かな沈黙があった。

そして・・・

「ちゆきさん・・・あの時は色々ごめんね」
僕は言った。

『ううん・・・あきくん成長するんでしょ?私達一緒に優勝するんだよね?
約束してくれたもんね?』
彼女は明るい声でそう言ってくれた。

「そうだね!」
心が弾んだような気がした。
ちゆきさんが明るく答えてくれるだけで嬉しかった


そして僕は聞く
「ちゆきさん?」

『なに?』

「またこうやって会ってくれる?」
そんな事は聞くもんじゃない。
自分でも分かっている。
でも聞かずにはいられない

『ん。。たまにね』

正面を向いていた僕はちゆきさんに正対した。

彼女をまっすぐに見つめる。

彼女も僕を見ていた。
でもすぐ目を逸らす。

「ハグしていい?」

『ダメ』
彼女はいたずらっぽく言った。

「そっか。。そうだよね(笑)」

僕の乾いた笑いが車の中に響く。
不安が胸を駆け巡り、きっと僕は情けない顔をしてたんだろうな。
もしかしたらちゆきさんは情けない男をほっておけないのかもしれない。

『なにそんなにしょんぼりしてるの?
そんなにあたしとハグしたいの?』

と笑いながら聞いてくる。
どんな表情かはよく見えない。

「そりゃ、あんな事あって、もうちゆきさんと2人で会えないと思ってて、
でも、こうやって2人きりでちゆきさんはいてくれる。。
それが俺にとってどれほど幸せでな事かっていうのは自分でもわかっているんだけど・・・
だけど・・・やっぱりちゆきさんの温もりや香りを感じたい気持ちは消せないよ
でも、ちゆきさんが『ダメ』っていうなら仕方ないよね!」

最後は精一杯明るくいったつもりだった。

『もう・・・ちょっとだけだよ?』

耳と目を疑った。

ちゆきさんは手を広げて、こっちに来ていいよ
と、合図してくれた。

僕は

本当に泣きそうになった。
もう二度とちゆきさんに触れられないんじゃないか?
と、思っていたから。

そしてそのまま

情けないとは思うけれど

ちゆきさんに甘えてギュッと

力強く、彼女を抱きしめたんだ。

『ちょっと・・・あきくん・・・ く、くるしいよ』

「あ。。ご ごめん」

きつく・・・ただきつく抱きしめた。
気持ちが溢れ出る。

僕はそのまま

彼女にキスをしてしまった。

そう・・・

黙ってキスをした。

それは

今までのどのキスとも違う

今までのどのキスよりも感情のこもったキスだった

深いキスじゃなかったけれど
軽いキスでもない。

『あきくん・・・今のキス・・・反則だよ
ルール違反』

彼女はそういった。

「ごめん・・・だめだったよね」

『だめだよ・・・そんなキスしたら』


キスは一人では出来ない。
彼女は少し酔っていたのかもしれない

けれど

なにかを越えたようなキスだった。

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