第140話 口実

今年最後の練習試合があった。
隣町が試合会場で少しばかり遠い。
僕はちゆきさんを乗せて2人で会場入りした。

もちろん、帰りに密会をするためだった。
というよりもそのために試合を組んだようなもの。

本当なら全員で集まって行くはずだったけれど、
なんだかんだと理由をつけて、2人で行った。
ちゆきさんは自分の車で行くといったけれど
僕が半ば強引に連れて行ったんだ。

試合は僕とちゆきさんのコンビが炸裂。
快勝で一年を締めくくった。
バレーに関していえばちゆきさんに引っ張られ
チームを引っ張り、自惚れるわけじゃないけど、
僕は本当に成長したと思う。

人間としてはまだまだだけど･･･


帰り

久しぶりに酔っていない彼女と密会をした。
実は･･･というわけじゃないけれど
前日にも密会をしていた。
飲み会の帰りだった。
少しばかり酔った彼女は可愛い。

キスをしてハグをして･･･愛撫まで･･･

この日、当然のように彼女は帰るつもりだっただろうけど
僕も彼女と会えるならば、どんな事でもしたい。

ちゆきさんにプレゼントを用意した。
口実だったかもしれない。でも･･･

いつでも腰や膝が痛いと言っていた彼女。
僕は痛みを和らげるという温湿布を買った。
それから彼女の好きなワイン･･･
は流石に買わないで黒烏龍茶とお菓子を少々。

渡したいものがある･･･
そう言って自然に車を脇道の暗がりに停める。
初めて来る場所だった。

この日

本当に久しぶりに助手席に座ってもらった。
ただ、彼女が隣にいるだけなのに風景が違う。

行きも　帰りも

僕らは手を繋いでいた。
いつでも手は繋ぎたかったし
助手席に彼女がいるのもいいな、と思った。

温湿布を渡し、飲み物やお菓子を渡し、
早く帰ればいいのに、
いや･･･そんな事は思ってないけど
僕らは食べながら雑談をしていた。

今日のちゆきさんは酔っていない。

僕は･･･

酔っていない彼女とキスがしたかった。

そう･･･

深いキスがしたかった。