第105話 心にぽっかりと

第十四部　安眠

ちゆきさんとの約束を果たす事ができ、
僕は抜け殻のようになっていた。
何故かは自分でもわからない。
わからないけど、やる気がおきなかった。

バレーの本大会まで一ヶ月しかない。

本当ならちゆきさんを優勝させるためにも
テンションあげて頑張らないといけない。
にもかかわらず、僕はやる気がおきなかった。

もしかしたら予選会で頑張りすぎたのかな？
とも思った。
そしてあの時は、ちゆきさんと本大会へ行きたい
連れて行きたい。旅行に行かせたくない。
そんな思いで、そんな思いだけで突っ走った。

本大会はそういうことは一つもない。
優勝したらデート
そういわれてはいたけど、冗談めいてもいたし
現実感がなかった。
堂々とデートしてやる！なんて思ったりもしたけど
張り詰めていた気持ちが切れたのか
それとも伸びきってしまったのか･･･

「ちゆきさん・・・俺なんかテンションあがらないんです」

『予選終わったばっかりだしね、いいんじゃない？
ゆっくり休みなよ。また少しずつ頑張っていこう♪』

弱い僕はあまり見せたくないけど
そんな僕にちゆきさんは優しかった。

僕が頑張れたのはちゆきさんのおかげ
彼女がいたから。
大会でも彼女は頑張っていた。
それに刺激され僕も引っ張られた。
引っ張ってるつもりだったのに本当は逆だった。

『あきくんがいっぱいチーム引っ張ってくれたから』

本当はあなたが僕を引き上げてくれてるんだよ。

ちゆきさんには感謝してる。
いろんな事、たくさん。

朝からハグしてくれた事も
手と足にマジックで書いてくれた事も
試合中何度も笑顔くれた事も
励ましてくれた事も
美しいトスを何度も上げてくれた事も

僕に勇気をくれた。
人を好きになるパワーって凄い
自分にあんなに力が出せるなんて。

それなのに僕は

何故だかテンションが上がらないまま
バレーの練習を重ねていく事となる。

肉離れも再発していた。

けどそれよりも
なにか心に穴が開いたような。
そんな錯覚に陥っていた。

安眠出来たのは
ぐっすりと眠れたのは
大会の夜だけだった。

人生で初めて
眠れない夜が続いていく。



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