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好きな女性との出会いからの全て
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密会_

最初の15分
僕は不貞腐れていた。
後部座席にも移動しないで
運転席のリクライニングを少し倒して。

彼女の元には大会後
色んな人からメールが来て
その返信に忙しそうにしていた。

僕はその行為が終わるのをただ静かに待っていた。
二人きりでいる時に他の誰かとのメールのやり取り。
そんな事今しなくてもいいじゃん?
思いながらもだた黙って待っていた。

彼女の作業が終わって一息つく。

手を繋ぎたい

運転席から手を差し伸べる。

彼女も差し出してくれる。

ふわふわと暖かい。


僕はもう我慢出来なくなって彼女の元へ向かってしまった。
運転席から後部座席への移動。
とても短い距離だけど、その日、その距離は僕にとって
遠く、高い壁のように感じていた。
乗り越えてしまえばなんでもないのかもしれないけど。

そこに彼女はいる。

僕は

すぐにハグしてしまった。

あんな事があったからもう出来ないと思っていたのに
彼女は拒みもしなかった。
それどころかこの日の彼女は僕を抱き返してくれる。

酔っているから?
それともバレーが僕らを繋いでいる?
僕が頑張ったから?

またいろんな事が頭を駆け巡る。

「キスしたい・・・」

彼女は黙って目をつぶっている。
寝ているかのようだ。

鼻と鼻がぶつかる距離
唇が触れるか触れないかの刹那の距離
そのギリギリで踏み止まる。

ふわふわと唇同士が掠めあう。

キスがしたい!
強く思うけどしない。出来ない。

吐息がもれる

どちらともなく

吐息がもれる

唇に向かって・・・
そしてまたキスをしない。

僕はキスをしなかった。出来なかった。

彼女の吐息が大きくなる。

キスをしたいのにキスをしない僕。
まつげが触れ合いバタフライキス
お互いの鼻が触れ合い
唇がまたギリギリのところで掠めあい

胸の鼓動は早まっていくばかり

二人の鼓動が早まり、高まり
気持ちが通じ合ったかどうかは
わからなかったけれど

僕らはキスをした。

何度も

何度も

軽いキスから少しずつ
何かが一気に溢れ出るかのように

上唇を噛み
下唇にキス
唇同士が重なり
お互いの舌でこじ開けられる
舌と舌が絡みあい
熱く、深いキスへと堕ちてゆく。

キスをした後
抱きしめあった後
いつもなら愛撫をする。
けど僕はこの時
彼女への愛撫をしなかった。
出来ないでいた。

約束の30分など

とうの昔にすぎていた・・・


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悪夢のような教頭との飲み会が終わった。
後悔しない日々が欲しい。

少しだけ、ほんの少しだけでいい。
ちゆきさんが僕の方を向いてくれたら・・・

それでも僕らにはバレーがある。
教頭との事は心の奥に無理やりしまい込んで
彼女と接する。

ちゆきさんはあの一件から
僕と少し距離を置こうとしたのかもしれない。
わからないけれど、そう感じていた。

それでも僕は日常的なメールを欠かさない。
生活の一部に僕を感じて欲しかった。


今年最後のバレーの大会があった。

バレーの大会までの間
再びメールのやり取りや電話をし合って
関係が修復していくような気がしていた。
壊れていたわけでもないのに・・・

結果は予選は突破したけど
最後に負けてしまって4位だった。18チーム中。

それなりに結果を残せた年ではあったけど、
優勝まで後一歩!ではなかった。
優勝するにはまだまだ努力が必要のようだ。

ちゆきさんとデート出来る日は来るのだろうか?

色々揉めた結果
慰労会は居酒屋をやめてカラオケになった。
監督に個人的に相談されたちゆきさんが提案したもの。
なるべく予算をかけないように言ったみたい。

この日も僕はずっと彼女の隣にいた。
ちゆきさんの隣の一つは僕のものでありたかった。

帰り

いつものごとく密会

『30分だけね・・・』

時計は21時半だった。

「もう少しいいでしょ?」
わがままをいう僕。

『本当だったらまっすぐ帰るんだよ?』

「でもさ・・・カラオケもう1時間延長しても良かったんでしょ?」

カラオケ自体は21時に終わった。
延長の声もあったがその日はお開きに。

『だってカラオケはみんなで楽しんでるしさ
あたしもカラオケ好きだし。』

「カラオケの1時間は良くて
俺との1時間は駄目なの?」

『だってそうでしょ?』

堂々巡り

「そっか・・・んじゃもう今日はこのまま帰る?」

そんな事思ってもいないくせに・・・

『え? ん・・・どっちでもいいよ・・・』

「どっちでもいいって・・・帰るって言わないんだね」

そのまま無言になる彼女
その間も僕は言葉とは裏腹に
いつもの密会場所へと車を走らせていた。

僕は悩んだ。
教頭を追い詰めたわけじゃないけど
結果的にそうなってしまって
ちゆきさんの思いは教頭に向かう。

元々僕に向けられるはずもなかったけれど
「あたししかいない・・・」そう思わせたくなかったのは事実だ。

『ごめんね・・・』
と、ちっとも悪くないちゆきさんが謝るのは辛い。

僕はメールを返す。
また打算的なメールだ。

【俺の方が悪かったんだから】
【教頭も疲れてストレス溜まってたんだよ】
【予想外にちゆきさんが来て嬉しくて余計酔ってしまったんだよ】
【あの時もう仲直りしたし全部水に流すってお互いに、ね】
【学校でも教頭の手助けをするつもりだし】

そんな内容。
僕は最低だ。
半分も思っていない。
むしろ・・・もう教頭を見限っていた。

それをちゆきさんに言う事は決してない。
あくまで僕は味方だと。

ちゆきさんを安心させたかった。
上辺だけだとしても、だ。

ちゆきさんに思わせたくなかった。
『あたししかいない・・・』と。

ちゆきさんからメールが来る。

『やっぱりごめんね』
『でもやっぱり教頭は可哀相』
『あたしが怒られてる気分だった』
『あきくんを責めてるみたいでごめんね』
『教頭も学校で色々大変なの』

『あたしがいないとダメなんだな~ってつくづく思った』

僕の心は折れそうになる。
けど強くなっていたはずの心はそれに耐える。
誤魔化そうとなにをしようとこのくらいでくじけてなんていられない。

ちゆきさんの傍にいるために
彼女の味方をして
教頭の味方の「振り」をして
なりふり構わず・・・

神様はそんな僕に運をくれたんだろうか?

今年最後のバレーの大会が一週間後に控えていた。
バレーがあれば仲良く戻れる。
愚痴を言い合ったりして元に戻れる。

教頭の事が薄れてゆく・・・

大会前、チーム内で大会後の反省会の費用の事でもめた。
チームでゴタゴタがあると僕らの結束は逆に強まる。
ちゆきさんが僕に色々愚痴を言うから。

そして大会が始まるころには
僕らはすっかり元通り?になっていた。
元通りに・・・見えていただけかもしれないけれど・・・


第十六部 喧嘩 完

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何度も繰り返してきた過ち。
教頭が一人ぼっちになればちゆきさんは
彼をほっておくことが出来ない。

それはわかっていたことだろ?

【だからこそ】
僕は彼女の前では教頭を悪く言う事はなかった。
思いはあったとしても。

彼女が彼の愚痴を言う事があっても僕は言わない。
むしろ「そんな事ないよ」と。「教頭も頑張ってるからね」と。
思いがなかったとしても。

全ては彼女が好きだからこそ。
そんな打算的な自分。

嫉妬に妬かれる。
その感情をちゆきさんにぶつけたなら
彼女の傍にいられるはずもない。

大丈夫なわけないのに
「大丈夫」という他なかった。




飲み会が終わり不安になる僕。
僕は彼女にメールした。

教頭の事はごめんなさい
俺の言い方が悪かった。と。

喧嘩?言い争いの原因は僕にあったのは
間違いがなかったから。素直にそう思った。
僕もソコを直さなければならない。

彼女からメールが来る。

『今日は飲み会さそってくれてありがとう
久しぶりの小学校楽しかったよ

でもごめんなさい 教頭のことでつまらなくなって

いつも教頭はみんなに嫌われてて先生方にもだし
今日飲んでてつくづく思ったの

私がいないとだめなんだって。
私しかいないのねって。

さっき教頭とメールしました。
言われる原因直さなきゃってメールしました。

今日はありがとう
ごめんなさいおやすみなさい』


言葉がなかった。
ちゆきさんを呼ぶべきではなかった。

教頭を責めようとも
教頭がみんなに嫌われようとも
それは結局僕にとっては自分に返ってくる事だった。

だから

そんな自分は最低だと思うけれど

彼女の前では教頭を悪くは言わない。
いや、誰の前でも言う事は止めた。
何も言う事はないのだから。

ちゆきさんの隣
ちゆきさんの傍にいるために

心が押しつぶされそうになるけれど
そんな自分が大嫌いだけど
それほど思いが募っていた。

ちゆきさんを苦しませたくない。

思いをぶつける事も
教頭を悪くいう事も、一人ぼっちになる事も

彼女を悩ませる。苦しませてしまう。
それならば・・・と、思う。

ちゆきさんを癒したい。

僕に出来ることがあるなら
なんだってするつもりだ。

僕が彼女の傍を離れる事以外ならば・・・


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一瞬の仲直り?
それさえもなかったのかもしれない。

「さっきはすみませんでした」

〔俺も言い過ぎた〕

なんて言い合いながらお互いに納得してない。

「でもね、教頭・・・俺の立場もわかってください
俺も幹事で少しでも安くあげようと色々考えてるんです」

〔そうかもしれないけど、お前なんて言った?〕

再び顔色が変わる彼。

「いや・・・すみません」

〔お前は俺に金払えっていったんだぞ?!
そんな事言われたら俺だってキレるだろ?!〕

【お前?】【キレる?】

飲み会の席とはいえ教頭が使う言葉だろうか?

「お前・・・ですか? キレちゃうんですか?」

〔そうだな!俺はキレるよ!あんな言い方されたら〕

もうこの人には何を言っても無駄だと思った。
同時にがっかりもした。

「わかりました・・・もういいです。すみませんでした。」

教頭の興奮は冷めない。
僕はどんどん冷めて心が引いていくのがわかった。

「もうやめろって」
また、誰かが言った。

「ホラ、とりあえず離れて離れて
な、楽しくやろう」

僕は全然納得いってなかった。
カラオケの部屋の事じゃない。
教頭の発言についてだ。

他のメンバーにも愚痴る。
そっと・・・

それでも見えないところで行われたやりとりではない。
カラオケの喧騒の中とはいえほぼ全員が見ていた。聞いていた。

そうだ・・・

ちゆきさんもいた。

僕の暴言よりも
彼のそれのほうが・・・みんなに与えた影響は大きかったよう。
教頭の信用はどうなってしまったんだろうか。

僕はちゆきさんにも愚痴りたかった。
俺も悪かったけどあんな言い方はないだろ?!って。

しかしそれは伝わる事はない。


カラオケも中盤というところで
教頭が僕のところへやってきた。

〔さっきはすまなかった。ごめんな。
俺、これからもあきと仲良くやっていきたいからさ
本当にすまなかった。〕

「いえ・・・俺の言い方が悪かったですから。
俺の方こそすみませんでした。」

教頭は酔っていた。
その気持ちがどこまで本物かはわからなかったけど
仲直りをした。握手をした。頭を下げあった。

僕の気持ちはうわべだけだった。

言葉ではきれいごとを並べる

【俺も教頭先生の事好きですし】
【これからもよろしくお願いします】
【また、前のメンバーでカラオケ行きましょうね】

全部上っ面だった。
今まではそれなりに突っ込んで付き合ってきたつもりだった。
例えちゆきさんの彼氏だとしても。
自分の子供がお世話になっている学校の教頭だし、
彼も頑張っていたのはわかっていたから。


彼の線引きは
年上か年下か
上司か部下か
気に入ってるかそうでないか

誰にでもそういう部分があるのは否めない。

けど

彼はそれがあまりにもハッキリしていた。

上司に諂い
部下に厳しく
年上は必ず偉くて
年下は生意気な口を利くな、と。

最早

先生方も含め彼の味方は一人もいなかった
そういっても過言ではなかった。

しかしその状況は・・・
彼が一人ぼっちになってしまう状況ってやつは・・・

ちゆきさんはほっておけるはずもない。
そんな性格の彼女。

それをわかっていたはずだった。
僕はちゆきさんをこの飲み会に誘った事を

後悔した。


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ILLUSTRATION BY nyao nyaoチャ箱♪  
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