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携帯が光っている
彼女からのメール。
僕はそのメールを何気なく開いた。
「今日、帰りに少し話がしたいの
いつものところで待ってて」
僕は目を疑った。
と、同時に嬉しくなっていた。
初めてちゆきさんから誘われた。
僕の都合なんておかまいなしかよ(笑)
そう思いながら顔が綻んでいるのがわかった。
携帯を持って会場に戻ると
さっきまでいなかったちゆきさんが来ていた。
なんだか照れくさい。
『遅かったね。どうしたの?』
「いや、家に携帯忘れて取りにいってました。」
『そうなんだ(笑)メールみた?』
「はい、見ました」
練習中
ずっとドキドキしていた。
二人きりで会うのはあの密会以来
実に約1ヶ月ぶりのことだった。
1ヶ月も会わない。
そんなことはちゆきさんとこの奇妙な関係になって
初めてのことだった。
練習が終わると僕はすぐにいつもの場所に向かった。
今日は保障がある。ちゆきさんは必ず来てくれる。
練習終わりの密会は随分前に禁じられていたから
ずっと我慢してた。
待っていると、車のライトが道路を照らす。
彼女の車が近づく。
僕はそれだけでドキドキした。
いつものように後部座席に乗り込む彼女
後部座席に移る僕。
彼女の匂いがする。
色んな話をした。
一時間くらい
心の距離が近くなった気がした。
ずっと密会を我慢してきて
メールも励ますように楽しく
ちゆきさんに元気を出して欲しい
ただそれだけの思いで過ごして来た。
それが伝わったのかな?
二人で本当に久しぶりに腹を抱えるほど笑いあった。
すっごく楽しくて、すっごく幸せで。
それでも僕は彼女を抱きしめるのが怖かった。
「ハグ・・・してもいい?」
いつでも時間がなくなってから行動する僕。
もう帰らなきゃいけない時間だ。
久しぶりすぎて心臓が限界を超えていた。
どんな風にハグしていたかわからなくなっている。
『いいよ』
ちゆきさんは優しく答えてくれた。
彼女にそっと寄り添い体をあずける。
彼女の匂いをもっと感じる
彼女の柔らかさを思い出す。
ギュッと抱きしめた。
もうそれはハグじゃなかった。
きっと僕の鼓動は彼女に伝わっていたんじゃないかな?
そう思うほどドキドキしていた。
彼女もそうだったのかもしれない。
彼女から少しだけ離れる
顔を見つめる
目を見つめる
お互いを見つめあう
僕らは
何もいわずただ黙って
そっとキスをした。
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ちゆきさんから返信が来た。
「ありがとう
あきくんの気持ちは昨日のメール以上にわかってる
だから私も頑張らないとって思ってます
ただ 膝が痛くて足が曲がらないとかあると
凄く不安になるの
気持ちが落ち込むとバレーがしたくなくなって
本当は大好きだからやりたんだけどね
あたしもどんどん年とって動きも悪くなるだろうし・・・
バレーはいつもあきくんが盛り上げてくれて嬉しいよ
ありがとう
本大会は頑張るよ」
この日を境にちゆきさんは変わったような気がする。
前よりももっと、愚痴を話してくれるようになった。
僕を頼ってのことかどうかはわかならいけど。
大会が近づくと必ず噴出する問題。色々な問題。
その問題の殆どがちゆきさんの元へ集まってくる。
みんなに相談され、監督にまで愚痴られ
心が疲弊しないわけがない。
それでもちゆきさんは嫌な顔一つせず
笑顔で相手をしていた。
たくさんチームの事でやりとりをしていた。
愚痴もたくさん聞いた。
ちゆきさんが僕を頼ってくれているような・・・
癒してあげたかった。
愚痴を聞いてあげたかった。
だからこそ
ちゆきさんが色んな事を話してくれることは
単純に嬉しかった。
『あきくんにはなんでも話しちゃう』
なんて笑っていた彼女
それは僕が望んだこと。
そして大会前最後の練習日がやってくる。
彼女にメールしようと思った。
「今夜帰りに少し会えない?」と。
話がしたかった。
いや、本当はずっと会いたかった。
だけど僕が会いたいという事は
彼女の心の疲弊を加速させるんじゃないか?
そう思って自分の心にブレーキをかけていた。
メールしようかどうか凄く迷う。
会いたい。
でもちゆきさんの心の重荷になりたくはない。
練習に来てから携帯を忘れたことに気づく。
これじゃ連絡もとれない。
練習が終わってからじゃ間に合うはずもない。
僕はだれにも気づかれないように
携帯を取りに戻った。
携帯を手に取り急いで練習に戻る
車に乗り込んで携帯が光っていることに気づく。
メール・・・
ちゆきさんからだった。
僕からはまだ連絡していない。
またなにか愚痴かな?
そう思いながらメールを開いた。
そこには・・・
僕には
僕にとっては
信じられない事が書いてあった。
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「今度、うちにも新しい子連れてくる。」
うちのチームは僕が一番若い。
一番近い年齢がちゆきさんだ。
話をよく聞くとその子はとても若いみたい。
23歳っていったかな?元バレー部らしく。女の子。
チームが強くなる事は嬉しい。
若い子が入る事はその近道かもしれない。
アクの強いチームでその子がやっていけるかどうかは
わからないけれど(笑)
ちゆきさんからメールが届く
「監督が言ってたけど今度若い女の子が
チームに入るみたいね。
他のチームもみんな若い子がどんどん多くなって
昔のバレーが懐かしいな・・・
男の子も若い子多くなってくるし
娘さんや息子さんとかもね
どんどん若い人ばかりになって
自分は年をとってきたからか つまらないの
昔からやってる人達も同じこと言ってた。
自分がコートに立ちたくても
若い人が来れば譲らないといけないし
出来なくなってくる、つまらない。
ってさ。
わたしも正直膝も腰もいつ故障しても
おかしくないから 若い人入ってくれたら
もしやめるような時も安心だけどね・・・
ごめんね この頃どのチームを見ても
若いチームで知ってる人が少なくなってさ。
そのうちあきくんも若い女の子と組むかもね♪
ごめんね 愚痴になって
ここ1年で人が大分変わったから
つまらなくなったの
今度の本大会はがんばるよ
いっぱい私とあきくんをやきつけてもらわなきゃね!
一番いいコンビだって
一番いいセッターであきくんにアタックしてもらうんだ」
あんなにバレーが大好きだった彼女
楽しんでいた彼女がいつの間にかつまらなくなってた?
膝や腰が痛いのは知っていたけど。
自分たちをみんなに焼き付ける
と、言われて僕はちゆきさんが
バレーをやめてしまうんじゃないかと感じていた。
若い子にヤキモチを妬いていたという事は否めないし
きっと僕に引き止めてもらいたかったんだろうし
優しい言葉が欲しかったんだと思う。
それを理解していた。
僕はまた長いメールを返す(笑)
「ちゆきさんバレーやめちゃうの?
そうじゃないとしてもつまらない?本当に?
確かに若い人が来ると自分がやりたくても
コートに立てない時はあるよ。
それはバスケでも経験してるからわかる。
でもちゆきさん・・・
あなたの右に出るようなセッターは他にいないよ。
バレーが大好きで勝ちたい気持ちがたくさんで、
あんなに美しいトスを上げる人を俺は他にはしらない。
俺も最近ようやく少しはアタック決まるようになってきて
チームの役に立てるようになって
チームも勝てるようになってきたけど
それも全部ちゆきさんのおかげじゃないか!
練習たくさんつきあってくれて
PTAで人間関係の大切さを教えてくれて
人を思いやる気持ちを教えてくれて
この間の予選会
ちゆきさんのために頑張ったから
あの優勝チームにも勝てたんだよ。
俺の事、成長させてくれたのも
俺が頑張れるのも、アタック決まるのも全部
ちゆきさん、あなたなんだよ。
あなたがいてくれるからなんだよ。
本大会で焼きつける?
やってやろうじゃん!
誰にも忘れられないような試合してやる。
足が折れようとも飛んで
腕がちぎれようとも打ってやる。
ちゆきさんのトスは全部決めてやる。
もっとちゆきさんにバレー続けたいって
バレーはやっぱり楽しんだって思わせてやる。
俺にとってあなたはかけがえのない存在です。
あなたがいたからバレーが楽しかったし、
あなたがいたからバレーが好きになった。
あなたがいたから俺はこのチームに入った。
ちゆきさん・・・
俺はね
今まで
あなたただ一人に認めてもらいたくて、
あなたただ一人に『頑張ったね!凄いね!』
と言われたくて、誉めて欲しくて頑張ってきた。
でもね
もっと俺は頑張れる!
もっと大きくなれる!
それにはあなたが必要です。
もちろんチームとしてもちゆきさんは必要だけど
俺はもっと必要としています。
ちゆきさんが膝や腰が痛いのを俺は知っている。
俺の言っていることはわがままで甘えてるのかもしれない。
けど
それほど俺にはちゆきさんの存在はでかい。
あなたがいないバレーなんて考えられない。
だからちゆきさん?
変な事考えたらだめだよ?
『もう、あきくんたら仕方ないな~甘えん坊で(笑)』
とかなんでもいいから、俺のためじゃなくてもいいから
まだちゆきさんと一緒にバレーがしたいです。
追伸
本大会、優勝目指して頑張ろうね
正直、ちゆきさんを本大会に連れて行くことが
出来た秋の予選会よりもテンションが上がってなくて
やる気もいまいちだったけど、パワー出てきた。
絶対に勝とうね!」
結局は僕のわがままを伝えただけになったかもしれない。
僕の思いを伝えただけだったかもしれない。
でもそれは嘘偽りのない真実だった。
励ますつもりのメールだったのに
パワーがみなぎってくる。
結局
僕はまた彼女から色んなものを受け取っていた。
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魅力的な彼女
社交的な彼女
ちゆきさんはは基本的に断らない。
色んな事を断らないような気がする。
色んな事を受け入れてくれるような気がする。
それが魅力の一つのような気がする。
事務的な彼女
素っ気無い彼女
僕には嫌な事は嫌だとハッキリという彼女。
でもそれは・・・
逆に僕に心を許していると考えている。
これは最近僕が勝手に考えていることだけど
ちゆきさんを慕ってくるすべての人達は
彼女に愛を求めていると思う。
彼女のパワーを欲しがっている。
元気を分けて欲しいと
慰めて欲しいと。
男、女、分け隔てなく、だ。
ちゆきさんは断りはしない。
自分が疲弊しようとも
自分を削り取って元気や愛をふりまく。
それが魅力
だけど、とても疲れると思う。
僕だって彼女に甘えたい。
愚痴も言いたいし
愛だって語りたい。
色んな事を誉めてもらいたいし
メールだってたくさんしたい。
それらの感情は心の奥のほうにしまっていた。
たまに溢れ出てしまうこともあったけれど
心の奥のほうに仕舞っていた。
彼女はすごくモテる。
男性からも女性からも。
男性からは愚痴をこぼされ
愛を語られ、誘われ
カラオケにいけばデュエット
チーク、そしてハグ。
メールも忙しくしている。
女性からも愚痴をこぼされ
飲み会に誘われ
色んな事を代弁して
盾になったりもしてた。
僕のところに舞い込んでくる
本当に様々な話
ヤキモチを妬かないはずもない。
でもそれは
彼女にとって
僕が最後の砦でもあるかのような。
僕には心を許している
だからこそ素の自分を出せる
そんな風に思っていた。
僕の望んだ事でもあった。
彼女の傍にいたいと。
ツライ事があろうとも、ヤキモチを妬こうとも
ちゆきさんの全てを受け入れる。
その覚悟があったかどうかは
また、今もあるかどうかはわからない。
元気のない彼女を知らない人は多いだろう。
僕は知ってる。
ちゆきさんの心の片隅に僕がいたとして
僕を頼ってくれているとしたら
僕から少しでも元気をもらっているとしたら
ちゆきさんが辛い時、不安定な時に
色んな事を吐き出したい時に
僕を思い出してくれたなら
こんなに嬉しいことはない。
この頃
そんな風に思い、感じていた。
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