第五話 本当の出会い

バレーチームに入り一年が経とうとしている。
その間彼女と過ごす時間は全て、僕にとって幸せな時間だった。

学校の行事、役員会議、バレーの大会、
バレー仲間や本部メンバーとの飲み会、
泊まりに行った事もあったなぁ…
バレーのみんなとだったけどね。

泊まりの時、彼女はサラっと僕にこう言った。

『マッサージしてね』

きっと彼女は僕がどれだけドキドキしていたか知らないだろう。
男として見られてなかっただけなのかもしれない。

そうやって僕は彼女の側にたくさんいる事ができた。
 また、いられる様にがんばったつもりだ。

その甲斐もあってかこの頃には彼女も大分心を開いていてくれていた。

メールもたくさんした。
なにかイベントがあれば送り迎えもする。
どこかに行った帰り、車で2人きりになった時、
いつもドキドキしていた。

彼女と手を繋ぎたい
キスをしたい
抱きしめたかった。

でも今の関係を壊したくない。
勇気が出るはずもない。
嫌われたくない…


ある日バレーの慰労会でカラオケに行った。
その日彼女はいつもに増して可愛く、
みんなに愛嬌を振り撒いていた。
でも僕のところには来ない…
なんだか切なくて寂しくて。

カラオケの喧騒が耳に障っていた。

僕はその日今までで一番やきもちを妬いたと思う。
この時改めて、やっぱり僕は彼女の事が好きなんだと心で理解した。


帰り道、僕らは車の中で二人きりになった。
時間は5分位だったと思う。
その時の事は今でもはっきり覚えているが
今までにない程ドキドキして、
そのまま心臓の音が聞こえるんじゃないかと思った。

そして僕は勇気を振り絞って彼女に言った。

『手を繋いでもいいですか？』

すると彼女は優しく…

『いいよ』

と言ってそっと手を差し延べてくれた。


彼女の手は冷たかったような、暖かかったような。
それがわからない程緊張していた。

ただ一つ言える事はこの瞬間が永遠に続けばいいのに…

そう思った。

それほど僕にとっては幸せな時間だった。


初めて出会ってから6年…

僕らはやっと本当の意味で出会えたのかもしれない。

第一部   完   

第四話 行動

彼女が運命の出会いをしているなんてつゆしらず、
僕は彼女への思いを募らせてゆく。

バレー大会は終わった。

しかしこの年は本部にいたので、
いつもよりも会える時が多い。
本部の飲み会も、今まで一度も参加した事ない
二次会までも積極的に参加した。

いつもの年よりも会える。
メールもたまにだけどしている。
だけど僕はそれだけでは足りなかった。


そして僕は行動に出た。


僕は趣味でバスケットをしている。
多い時は週4回家を空けていた。
そして彼女はバレーのチームに入っていた。
PTAとは関係のないバレーチームだ。

僕はその彼女のいるバレーチームに入る事を決意する。
バスケどバレーで週6日…
家にいる暇がない。
体も悲鳴をあげていた。

それでも彼女に会える。
本部で、バレーで…
彼女に会える。

この事は彼女に言ったかどうか…
僕は彼女と会うために、
彼女とバレーをするためにそのチームに入ったんだ。

僕の心の内を考えた時…
自分でもよく行動出来たなと、今尚思う。

そして、バレーの飲み会などを経て更に彼女に惹かれ続けていった…
彼女には別の男性がいるとも知らずに…

いや…気付いてはいたんだ。
ただ…認めたくなかっただけなのかもしれない。

第三話 転機

僕が学校にお世話になり3年が過ぎた。
4年目の春、転機が訪れる。

気さくで明るく、仕事も出来る彼女。
みんなに好かれている彼女はPTAの執行部にいた。(彼女なら当然だろう)
その執行本部に僕が選ばれたのだ。
PTA全体でたった6人しか選ばれない本部に僕が…

それは僕の思惑の外で話が進んでいた。
まさか自分が推薦されるなんて…
仕事は大変かもしれないが彼女と一緒ならつらい事なんて一つもない。
そう思える。

奇しくもその年のバレー大会は僕らの学校が当番校だった。
本部の仕事も毎年のそれより大変なものらしい。
しかしそれは団結力にも繋がってゆく。


その頃になると僕と彼女は毎年のバレーの事もあり、
かなり仲良くなっていた。
メールアドレスも交換し、それなりにメールもしていた。

そして本部同士、更に仲良くなってゆく…
バレー練習も大会に向けた準備も大会も、
彼女に会えるなら全部うれしくて楽しかった。

この頃の僕の気持ちは『好意』から完全に
『好き』に変わっていたと思う。


再びバレー大会で同じチームになる。
去年よりも更に盛り上がっが、結果は出なかった。

しかし僕らの絆はもっと深まったと思った。
いや、僕一人で感じいただけかもしれないけれど、
少なくとも彼女も僕の事を嫌いではなかったと思う。 
かわいい？かどうかはわからないけれど、
弟みたいな感覚だったのかな…


この年、僕の気持ちは転機を迎えていた。


しかし彼女もまた、人生の転機を迎える出会いをしていた…
僕じゃないある男性との出会いだ。


そして僕らは未だ、出会えない…

第二話 絆

バレーの練習は約一ヶ月続いた。
そこで僕は彼女に惹かれてゆく。
しかし、一ヶ月が過ぎればまた元の生活へ。
彼女と会える日はない。
当然、彼女への想いも風化してゆく事となる。


次の年再びバレー大会に臨む。
彼女とは幸運にもまた同じチームだった。
僕は練習日が待ち遠しくなっていた。 
彼女が練習に顔を出せば嬉しかったし、
そうでなければつまらなかった。
再び思いが募り、そして再び惹かれてゆく…

人が人を好きになるのに理由などあるのだろうか・・・

しかし僕らはまだ出会えない。

彼女に自分の気持ちを伝えられるはずもない。
しかもこの頃はまだ、『好き』というよりも
『好意』に近かったのかもしれない。

それでも彼女を目で追う僕がいた
みんなでいても、彼女をさがす僕がいた
たくさんいる女性達の中で彼女の隣にいたいと思った。


その年の僕らのチームは最高だった。
メンバーもコンビも盛り上がりも実力も…
全てに最高だった。最高に楽しかった。

そのチームは近年稀にみる好成績で大会を終えた。 準優勝だった
最後に負けてしまったけれど、この時僕は確かに感じたんだ。
僕らには絆が出来たと…


そしてまた日常が始まり、彼女に会えない日々も同時に始まった…

第一話 出会い

第一部　出会い

今から6年前。
地元のミニバスケットチームのコーチを
していた僕は初めて彼女に出会った。

僕はコーチ、彼女はその教え子の母親。
僕も彼女も既婚者、子供もいる。
僕の子供はその頃まだ幼稚園だった。

その時はなんの感情もなく会っても
挨拶する程度の関係だったと思う。

まだ学校のPTAにも入っていなかったし
会うのも年に1～2回だった。
そして初めて出会ってから2年後、
僕の子供が彼女の子供と同じ小学校に入学する。

まだ彼女の魅力には気付かない。

そんな僕に転機が訪れる…
いや、転機というにはまだ早いか

学校に入って2年目、つまり出会ってから3年目
地元の小学校対抗のバレーボール大会があった。
小学校対抗といってもPTA、つまり親同士の交流大会だ。

そこで同じチームになる。

以外にも！というわけではないが、その練習は真剣なもので、
1ヶ月もの間、週に2~3回練習をくり返す。
彼女に会う頻度が増す。

そこで、明るく楽しく彼女はいつも笑っていた。
とても素敵な笑顔で…

この頃から僕は彼女の魅力を少しずつではあるが感じてゆく事になる。
当然、彼女はその事に気付くはずもない。



つまりここでの出会いとは、ただお互いに認識しあう事ではない。
彼女の魅力に僕が気付き始める事だ。
そしてその僕の気持ちが彼女に伝わった時、初めて二人は出会った事になる。

そういった意味では僕たちはまだ本当には出会ってはいなかった…